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大阪家庭裁判所 昭和62年(家)395号 審判 1989年9月21日

申立人 高田真理子

相手方 高田満夫

未成年者 高田博子 外1名

主文

相手方は、申立人に対し、144万7390円を支払え。

相手方は、申立人に対し、平成元年9月1日から未成年者らがそれぞれ成年に達するまで、未成年者1人当たり1か月3万4563円の割合による金員を、毎月末日限り支払え。

理由

1  申立ての趣旨

相手方は、申立人に対し、未成年者らの養育費として毎月6万円を支払え。

2  当裁判所の認定した事実

本件記録並びに当庁昭和59年(家イ)第3445号事件及び同昭和61年(家)第422号、第423号事件の各記録によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  申立人と相手方は、昭和48年9月3日婚姻し、昭和49年6月3日未成年者博子(以下「博子」という。)を、昭和51年7月9日同明子(以下「明子」という。)をそれぞれもうけたが、昭和59年12月21日未成年者両名の親権者をいずれも申立人と定めて調停離婚した(前記第3445号事件)。なお、相手方は、同調停の際、無職で収入がなかつたため、未成年者らの養育費は支払えないから、申立人がこれを請求しないのであれば、申立人から解決金として計250万円(ただし、うち150万円については調停成立前に当事者間で授受済み)の支払いを受けることで離婚等について応じてもよい意向を示し、申立人はこれに対し、その時点では相手方に未成年者らの養育費を請求しない意思を表わしたことから、申立人と相手方は、今後相互に名目のいかんを問わず、金銭上、財産上の請求をしない旨合意して前記調停が成立した。

(2)  ところが、申立人は、昭和60年9月9日、 相手方に対し、未成年者らの養育費請求の調停を申し立て、相手方が調停期日にいずれも不出頭であつたため、昭和61年1月27日調停不成立となつて審判手続に移行した(前記第422号、第423号事件)が、相手方が外傷性頸肩症候群との診断で同年3月22日から○○病院に入院し、退院の見込みが立たなかつたので、同年6月6日、申立人は前記養育費請求の申立てを取り下げた。

(3)  同年9月22日、申立人は再び当庁へ相手方に対する未成年者らの養育費請求の申立てをしたが、やはり相手方は調停期日に出頭せず、昭和62年1月26日調停不成立となつて本件審判手続に移行した。

(4)  申立人は、前記離婚後、未成年者らと同居して、昭和62年11月まで申立人の母の経営する美容院で稼働し、1か月7万ないし8万円の給与を得ていたが、同年12月からは後記スナツクを経営するようになり、以後の稼働状況及び収入は後記認定のとおりであるが、前記期間中、未成年者らの児童扶養手当を受給してきた外、必要に応じて前記母からの援助を受けてきた。

(5)  他方、相手方は、前記離婚後、トラツク運転手として稼働していたが、前記のとおり入院した後、昭和62年3月、当時勤務していた(株)○○を退職し、昭和63年1月からは○○鋼材株式会社に運転手として勤務している。

3  当裁判所の判断

(1)  前記2(1)で認定したところによれば、申立人と相手方は、前記離婚に際し、未成年者らの監護費用は申立人において負担する旨合意したものと認めることができ、こうした合意も未成年者らの福祉を害する等特段の事情がない限り、法的に有効であるというべきである。

しかしながら、民法880条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所はその協議又は審判の変更又は取消をすることができる。」と規定しており、同規定の趣旨からすれば、前記合意後に事情の変更を生じたときは、申立人は相手方にその内容の変更を求め、協議が調わないときはその変更を家庭裁判所に請求することができるといわなければならない。

そこで、前記合意後「事情に変更を生じた」といえるかどうかについて判断する。

前記2(2)、(5)で認定した事実によれば、相手方は前記離婚当時無職で収入もなかつたこと、その後昭和62年12月までの相手方の稼働状況及び収入状況は必ずしも明らかではないものの、安定した稼働状況とはいえず、したがつて収入も安定したものではなかつたこと、昭和63年1月から相手方は○○鋼材株式会社に勤務し、後記認定のとおりの収入を得ており、経済的にも一応安定した生活状況であることを認めることができ、他方、申立人の稼働状況等は前記2(4)で認定したとおりであり、その基礎収入は後記(3)で認定するとおりであるが、これは以下で求める申立人と未成年者らの最低生活費をも下回るほどの少額である(なお、昭和63年1月から同年3月までは最低生活費を上回る基礎収入が認められるが、同年4月から同年9月までの基礎収入がかなり少ないので、平均すると最低生活費を下回るものである。また、最低生活費の算出に当たつては、基礎収入の算出に当たつて住居費を控除していることとの対比上、住宅扶助は加算しないこととする。)。

(昭和62年4月から昭和63年3月までの最低生活費)

(居宅第1類)(居宅第2類)(地区別冬季加算額)(期末一時扶助費)

3万3190+3万8800+3780×(5/12)+1万1780×(1/12) = 7万4547(円)(円未満切上げ。以下同じ)

(同年4月から平成元年3月までの最低生活費)

3万3600+3万9490+3830×(5/12)+1万1930×(1/12) = 7万5680(円)

(平成元年4月以降)

3万4640+4万2140+3990×(5/12)+1万2300×(1/12) = 7万9468(円)

以上認定した事実によれば、遅くとも本件申立て後である昭和63年1月には相手方は経済的に安定した状態となり、反面、申立人には同人と未成年者らの最低生活費をも下回る基礎収入しかなく、事情に変更を生じ、申立人が相手方に対して前記合意内容の変更を求めることができるというべきである。

(2)  そこで、相手方が申立人に対して支払うべき未成年者らの養育費の額について検討するが、一般に、父母はその未成熟子に対して自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持の義務を負い子が父母のいずれに養育されている場合であつても、生活水準の高い親と同程度の生活が保障されるべきである。

(3)  まず、昭和63年1月以降の申立人及び相手方双方の基礎収入を算出する。

(申立人の基礎収入)

申立人は昭和63年1月から同年3月まではスナツク「○○」を経営していたが申立人の陳述によれば、1か月の総売上げは約35万円で、これから従業員給与10万円、家賃8万円、酒屋からの仕入れ等の経費7万ないし8万円を差し引いて、1か月の収入は約10万円であつたとのことであるので、前記期間中の申立人の1か月当たりの収入を10万円と認めるのが相当である。

同年4月から同年9月までの間、申立人は卵巣腫ようの手術のための入院及び療養で、就労しておらず、収入もなかつたものと認められる。

同年10月から平成元年3月までの間、申立人は小学校調理員アルバイトとして稼働し、同期間中に次のとおり38万80965円の収入(ただし、通勤費2400円を除く。)を得ている。

4万1400+5万3820+4万4130+5万2785+5万9640+8万9460+4万6860 = 38万8095(円)

同年4月以降、申立人は○○工業所に勤務し、同年6月20日までに計47日間稼働して、同月までに次のとおり合計20万7900円の収入を得ている。

6万8250+6万8250+7万1400 = 20万7900(円)

以上の外、申立人は、未成年者らの児童扶養手当として、昭和63年3月までは月額3万8900円を、同年4月以降月額3万9000円を受給している。

他方、申立人は、国民年金保険料として、同年1月分から同年3月分までは1か月当たり7400円を、同年4月分から平成元年3月分までは1か月当たり7700円を、同年4月分以降1か月当たり8000円を支払い、住宅費として、昭和63年1月から同年3月までは1か月2万8070円を、同年4月から同年11月までは1か月2万8120円を、同年12月から平成元年3月までは1か月3万320円を、同年4月以降は1か月3万270円をそれぞれ支払つていることが認められる。なお、申立人は昭和63年12月分の賞与から5279円の所得税を差し引かれているが、同月分の給与の際同額の還付を受けており、結局、同年以降所得税を支払つていないことが認められるし、住民税についても支払つていないものと認められる。

そこで、申立人の基礎収入については、前記収入と児童扶養手当を合算したものから、前記国民年金保険料及び前記住宅費の外、昭和63年10月以降は申立人の稼働形態、稼働日数等を考慮し、職業費として収入の10%を控除したものとするのが相当であり、その額は

ア昭和63年1月から同年3月まで(1か月当たり。以下同じ)

10万+3万8900-(7400+2万8070) = 10万3430(円)

イ 同年4月から同年9月まで

3万9000-(7700+2万8120) = 3180(円)

ウ 同年10月から平成元年3月まで

(38万8095/6)+3万9000-(7700+(2万8120×2+3万320×(4/6))+(38万8095/6)×0.1) = 5万9927(円)(円未満切捨て。以下同じ)

エ 同年4月以降

(20万7900/3)+3万9000-(8000+3万270+(20万7900/3)×0.1) = 6万3100(円)

となる。

(相手方の基礎収入)

相手方は、昭和63年1月から○○鋼材株式会社に運転手として勤務し、同月から同年11月までに268万6800円(賞与等計16万円を含む)の収入を得ていることが認められる外、相手方の陳述によれば、同年12月に賞与手取り(支給額から税金及び社会保険料を控除したもの)約21万円を得ていることが認められるので、相手方の1か月当たりの収入を次のとおり26万1754円とすべきである。

(268万6800/11)+(21万/12) = 26万1754(円)

そして、同期間中に、相手方は、所得税として13万1152円を、社会保険料として23万795円を支払つている外、家賃及び共用費として1か月1万2100円(ただし、平成元年5月は1万2200円)を支払つていることが認められる。相手方が支払つている住民税については、当裁判所による調査に対する相手方の非協力もあつて必ずしも明らかではないが、同期間中は7万4634円と推認され、平成元年6月は8300円と認められるので、同年5月までは1か月6785円と、同年6月以降は1か月8300円とするのが妥当である。

そこで、相手方の基礎収入は、前記収入から、所得税、住民税、社会保険料及び家賃・共用費並びに職業費として収入の15%を控除したものとするのが相当である。したがつて、その額は、

ア 昭和63年1月から平成元年4月まで(1か月当たり。以下同じ)

26万1754-((13万1152/11)+6785+(23万795/11)+1万2100+26万1754×0.15) = 17万701(円)(円未満切捨て。同下以じ)

イ 同年5月

26万1754-((13万1152/11)+6785+(23万795/11)+1万2200+26万1754×0.15) = 17万601(円)

ウ 同年6月以降

26万1754-((13万1152/11+8300)+(23万795/11)+1万2200+26万1754×0.15) = 16万9086(円)

となる。

(4)  以上認定したところによれば、未成年者らは申立人と共同生活するよりも相手方と共同生活した場合の方が高い生活水準にあることは明らかであるから、未成年者らが相手方と共同生活した場合に未成年者らのために費消されるべき1か月の費用を労働科学研究所の総合消費単位によつて算出することとする。それぞれの消費単位は、相手方が125(単身加算20を含む。)博子が80、明子は平成元年3月まで60、同年4月以降80である。

ア  昭和63年1月から平成元年3月まで

(博子)17万701×(80/(125+80+60)) = 5万1532(円)

(円未満切捨て。以下同じ)

(明子)17万701×(60/(125+80+60)) = 3万8649(円)

イ  同年4月

(博子、明子とも)17万701×(80/(125+80+80)) = 4万7916(円)

ウ  同年5月

(博子、明子とも)17万601×(80/(125+80+80)) = 4万7887(円)

エ  同年6月以降

(博子、明子とも)16万9086×(80/(125+80+80)) = 4万7462(円)

(5)  そこで、未成年者らが相手方と共同生活した場合の未成年者らの生活費を申立人と相手方がそれぞれの基礎収入に応じて分担すべきであるから、相手方が負担すべき額(月額)は次のとおりとなる。

ア  昭和63年1月から同年3月まで

(博子)5万1532×(17万701/(10万3430+17万701)) = 3万2088(円)

(円未満切捨て。以下同じ)

(明子)3万8649×(17万701/(10万3430+17万701)) = 2万4066(円)

イ  同年4月から同年9月まで

(博子)5万1532×(17万701/(3180+17万701)) = 5万589(円)

(明子)3万8649×(17万701/(3180+17万701)) = 3万7942(円)

ウ  同年10月から平成元年3月まで

(博子)5万1532×(17万701/(5万9927+17万701)) = 3万8141(円)

(明子)3万8649×(17万701/(5万9927+17万701)) = 2万8606(円)

エ  同年4月

(博子、明子とも)4万7916×(17万701/(6万3100+17万701)) = 3万4984(円)

オ  同年5月

(博子、明子とも)4万7887×(17万601/(6万3100+17万601)) = 3万4957(円)

カ  同年6月以降

(博子、明子とも)4万7462×(16万9086/(6万3100+16万9086)) = 3万4563(円)

したがつて、昭和63年1月から平成元年8月まで、相手方が申立人に対し、未成年者らの養育費として支払うべき金額は次のとおりである。

(博子分)

3万2088×3+5万589×6+3万8141×6+3万4984+3万4957+3万4563×3 = 80万2274(円)

(明子分)

2万4066×3+3万7942×6+2万8606×6+3万4984+3万4957+3万4563×3 = 64万5116(円)

結論

以上のとおり、相手方は申立人に対し、昭和63年1月から平成元年8月までの未成年者らの養育費として計144万7390円を即時に、同年9月1日以降未成年者らがそれぞれ成年に達するまで1人当たり1か月3万4563円の割合による金員を毎月末日限り支払うべき義務がある。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 須田啓之)

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